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破水で馬の出産を検知する電池レス無線センサー競走馬生産者の負担を減らす

エイブリックは2023年2月21日、同社の電池レス無線センサー技術「CLEAN-Boost」で馬の出産時の破水・発汗をセンサーで検知し、無線ネットワークで遠隔通知することができるIoT(モノのインターネット)ソリューションを開発したと発表した。

» 2023年03月07日 13時30分 公開
[半田翔希EE Times Japan]

 エイブリックは2023年2月21日、競争馬の生産を行う増尾牧場(北海道沙流郡日高町)、農業機械販売を行う小坂機械(北海道日高郡新ひだか町)、ICTサービスを提供するサンデンシステムエンジニアリング(群馬県伊勢崎市)と共同で、馬の出産時の破水・発汗をセンサーで検知し、無線ネットワークで遠隔通知することができるIoT(モノのインターネット)ソリューションを開発したと発表した。

 同ソリューションは、エイブリックの電池レス無線センサー技術「CLEAN-Boost」を使用している。CLEAN-Boostは、マイクロワットレベルの微弱なエネルギーを集めて蓄電、昇圧し、無線通信に利用する技術。エイブリックは同技術を活用し、建物や配管などの漏水を検知するバッテリーレスの漏水センサーを既に製品化している。

 今回開発したIoTソリューションは、エイブリックのCLEAN-Boostを用い、サンデンシステムエンジニアリングがセンサーで感知した情報を受信し、生産者に通知するシステムとして構成したもの。センサーを馬の尾に付けることで、出産時の発汗や破水を検知し、羊水・汗で発電した微弱な電力を用いて無線通信を行い、生産者に知らせる。水分を検知してからおよそ10秒後には生産者に音や光、メールで情報を知らせることができる。

 CLEAN-Boostを用いたセンサーは、電解質が金属に触れることで発電する。そのため、汗や羊水でも問題なく検知して発電することができるとエイブリックは説明する。

馬の出産検知実験の様子 馬の出産検知の実証実験の様子 出所:エイブリック

 馬の出産は、通常分娩の場合は人の介助を必要としないものの、異常分娩の場合は獣医師の手配が必要となる場合もある。そのため、軽種馬生産農家は、馬の出産時期になると安全かつ確実に出産を行うべく、昼夜を問わず厩舎に設置したカメラでの母馬の見守りを行っていて身体的な負担が大きいという実情があった。

 エイブリック担当者の和気宏樹氏は共同開発のきっかけについて、「増尾牧場が出産検知に使えるソリューションを探していて、小坂機械に相談したことがきっかけだった。増尾牧場がエイブリックの漏水センサーを知っていたため、小坂機械を経由して『羊水検知に使用できないか』と相談をもらい、挑戦することになった」と説明した。

 共同研究は、2021年の馬の出産シーズン(1月〜5月)から始めていて今期で3期目。既に12頭の馬で実証を行っていて、CLEAN-Boostが羊水で反応することや、厩舎から300m離れた自宅まで無線送電を行い、生産者に通知できることも確認できている。

 和気氏は今後の課題について、「CLEAN-Boostは、羊水だけでなく尿でも反応してしまうため、センサーの取付位置の工夫やソフトウェアのアルゴリズムの最適化を通じて誤認識を減らす必要がある。センサーの取付位置も、馬のストレスにならない場所でなければいけないため実証実験を重ねる必要がある」とした上で、「牧場の労働環境が本当に大変なことは、実際に北海道まで行って体感した。今後も共同開発を続け、労働環境の改善に貢献したいと思っている」と語った。

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